不思議術師フルー&ジニー


 ここは不思議な世界。
 何が不思議かって?
 それは全てさ。
 そうだなあ…。
 一番不思議なのは、それを不思議だと思わないこの世界の人達かな?
 あははっ!
 それじゃあふしぎなおはなしの始まり始まり。

「ほーら、いくよ!」
 少年が空に指で円を描くとそこからシャボン玉が次々と飛び出した。
「わあ!すごいすごーい」
 少年が相手をしているのは更に年下の子供達、少年も十代中程だろう。
「ほ〜ら、まだまだ出るよ〜」
 次々と飛び出してくるシャボン玉に少年達の歓喜の声は絶えない。
「じゃあ,お次はこいつだ〜」
 取り出した風呂敷の端を両手でつまむとふわりと風呂敷が持ちあがり空へ舞い上
がって
行った。もちろん端を掴んでいた少年を連れて。
 少年の名はフォルロ・マーニックその職業は不思議術師いわゆる手品師であった。
「僕も飛びたーい!」
 子供達がフォルロの下に集まってきたのを見ると彼は風呂敷の手を離した。
 当然の如く落下するフォルロは慌てる様子も無く更に懐から一枚風呂敷きを取り出
すと空中でそれに乗った。
 空飛ぶ絨毯の様に舞い上がって行く風呂敷きから地面に顔を覗かせたフォルロは
言った。
「今日はおしま〜い。皆また今度ね〜」
 そう言って彼はそれの彼方へと消えて行った。子供達はそれを不思議そうにただ見
つめているだけだった。
 
 ハア、ハア、ハア、ハア、ハア。
 少女が息を切らして走っていた。
 おそらくもうここまでは追ってこないだろう、問題はここからだが。
 一体なんだったのだあの訳の解らない軍人達はいきなり村を襲撃するなんて、他の
皆は逃げる事ができたのだろうか?
 そんな事を考えて下を向いていたら急に日当たりが悪くなった。今日は雲一つ無い
快晴だったはずなのに何があったんだろう?そう思い上を見上げて少女は驚いた。
 風呂敷に乗った少年が目の前に下りてきたのだ。年の頃は同じ位だろうか?
「やあ,僕の名前はフォルロ・マーニック、フルーって呼んで。君の名前は?」
「え?わ、私はジーニヴァス・ステラツイ。ジニーって呼んで…」
 その屈託のない微笑みについ返事をしてしまった。
「あ,貴方は…?」
「ふふっ、僕の事なんかより君に何かあったのかい?随分悲しそうな顔していたけ
ど。……眉間にしわはよくないよ」
 彼は笑顔を絶やさぬまま怪訝な顔をした(らしい)私に言った。
「君を悲しませているものは何かな?僕で良ければお手伝いするよ」
「お手伝いって?」
「そうだね…。君の笑顔を取り戻すお手伝いかな?」
 彼は今度はウインクして見せた。ようやく落ちつき始めてフォルロと名乗った少年
を見ると、その顔には変わったメイクがされていた。さながらピエロといった感じ
だ。
 彼は私の表情に気が付いたのか,何かに思いついたような顔をした。
「おっと,僕とした事がお化粧したままだったみたいだね。これは失礼」
 そう言って風呂敷を頭から被ると取り払った後には紛れもなく美少年がいた。
「さあ、いってごらん。一体君に何があったんだい?」
 思わず見とれてしまっていた私は我に戻って慌てて言った。
「あ、あの村が訳分からない人達に襲われて。何が何だか分からないけど村長さんが
逃げろって言って,それで…」
 自分でも何を言っているか分からなかったが彼には通じたようだ。
「大変だったんだね,じゃあ,そいつ等を懲らしめに行こう」
 いつのまにか涙を流していた私の頬をぬぐって彼が言った。
 そんな無茶だ、確か謎の襲撃者は百人近くいたはずだ。
「あ,貴方。何者なの?」
「僕が何者か?なんてどうでも良い事だけど、皆はこう呼ぶよ。不思議術師ってね」
 彼は今一度、屈託のない笑みを浮かべて言った。

 村へと戻る道すがら不意にフォルロが言った。
「何かを犠牲にして手にいれた幸せなんて本当の幸せじゃないよ」
「?」
 私は彼が何を言っているのか分からなかった。しかし彼は気にすることなく続け
た。
「自ら望んで犠牲になった人がいたとしても、その犠牲に涙する人が必ずいる。矛盾
するけど全ての人が幸せになれればいいと思う」
「でも…」
 反論しようと思った。少なくとも村を襲った奴等に幸せになる資格はない!そう言
いたかった。
「僕はね自分の父親を殺したよ。じゃないと殺されていた。母親も殺されたしね」
 その話の内容とは裏腹に表情はずっと屈託のない笑みを浮かべたままだ。
「まあ,色々理由はあるんだけどもしかしたらほかに方法があったかもしれないね。
もう手遅れだけど」
 私には彼が何を言いたいのか分からない。
「とにかく後悔しないね?」
 不意に言われたがしっかりと頷いた。
 村が見えてきたところで彼は足を止めた。
「人数が多いな…。奇襲でも掛けようか。出ておいでチック」
 そう言うと合わせた掌から小さな鳥が姿を現した。チックという名前らしい。
「おいき」
 そう言ってチックを離すとまっすぐに村に飛んで行った。
「行くよ」
 そう行って再び彼は村に向かって歩を進めた。
 村は大騒ぎだった。といっても村人の声ではなく襲ってきたもの達の声だ。
「一体何が…?」
 良く見ると男達は蜂に追いまわされてあちこち逃げ回っていた。中には死んでいる
ものもいた。そういえば蜂に二度さされると死ぬと聞いた事がある。
「帰っておいでチック」
 フォルロが言うと蜂が密集していき一羽の鳥になった。先ほど見たとりだった。
 鳥はフォルロの手の中に入ると開いた時にはいなくなっていた。
「さて、一人捕まえて話でも聞こうか」
 ほとんどの人間が動かなくなっており、かろうじて喋れそうな男にフォルロは話し
掛けた。
「君達は何故この村を襲ったのかな?」
 敵にものを尋ねているとは思えないほど友好的な口調だった。
 男はあっけに取られていたがやがて口を開いた。
「我々はこの地域一帯を治めるバトキス国の正規軍だ。この村はほとんどの者が犯罪
者でしかも、十二年前当時四歳だった王女を誘拐したテロリストもこの村に住み着い
ている事が分かった。ようやくこの村の位置を突き止めた国王は王女が生きている事
にわずかな望みを託し我々をこの村へ派遣したのだ」
「その王女様は見つかったかい?」
「いなかった、少なくとも王から教わった特徴と一致する娘は」
「もう一人居るんだけど彼女は違うかい?」
 フォルロは私を男の前に立たせると彼は驚きの表情を見せた。
「間違いない!貴方こそ王女だ」
 男は大声で言った。
「だってさ、ジニー君としてはどうだい?僕としては彼らと共に国へ戻るのがいいと
思うけど君の感情はそれを受け入れてくれるかな?」
 彼の言ったことに私は驚いた。確かにそのとおりだった。彼らは私が実の親だと
思っていた人達を殺した。しかし彼らは元々テロ目的で私をさらっていたのだ。テロ
が失敗したとして、何故私を生かし育ててくれたのか分からないが私にとってはいい
家族だった。
 私の本当の父は私の為に彼らを殺した。私はいったいどうすればいいのだろう?
「我が主は王女が生きている事を切に願っていますどうか、国にお戻り下さい」
「・…………」
 男は叫びフォルロは何も言わない。答えは自分で出すしかなかった。
「私は…私は今回の事で何が正しくて何が間違っているのか?選んだ答えが本当に正
しいのか?それが解らなくなりました。だからもう少し考えたい…」
 私はフォルロを見た。彼は今までとは違うやさしい笑みを浮かべていた。
「世界中の色々なものをみて考えていきたいと思います。一緒に連れて行って下さ
い」
「ま、それでもいいんじゃないかな?」
 相変わらず笑顔のままだ。
「姫!」
 男が叫んだ。しかし、フォルロがそれを制した。
「彼女が本当の答えを見つけるまで僕が彼女を責任持って守るから君は国に帰って。
国王に娘の生存を伝えなよ。彼女が答えを見つけて、本当の親に会おうという気に
なったら責任を持って国まで連れて行くよ」
 そして私に向き直って言った。
「じゃあ、行こうか,ジニー」
「よろしくね、フルー」
 私は差し出された手を取り言った。
 彼は再びニッコリ笑って…
「名前を呼んでくれたのは初めてだね」
 と言った。
 あるのかどうかも解らないものを目指して私は彼の後を追った。


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